転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
「今日、皆が集まってくれたことに感謝する。さて、今日ここに集まってもらったのは、皆に仲良く過ごしてもらいたいからだ。我が国に滞在している間、できる限り快適に過ごしてほしい」

 皇帝が話し始める。リヒャルトとよく似た面差しの、どこか冷たいところを感じさせる五十代の男性だ。紺を基調とした衣服を身に着け、上着は、袖口のところに金、銀、白の三色を用いて刺繍が施されていた。

 リヒャルトと違い、髪は短く刈り上げてある。彼の隣にいるのがアデリナ皇妃だ。二人の容姿は肖像画を見て知っていた。

 滅びた王国の王女という話に納得してしまうようなはかなさがある。身にまとうドレスは、皇妃にふさわしい贅をつくした装いであったけれど、どことなく影が薄いというか不幸を背中に背負っているというか、そんな雰囲気のある女性だった。

(たしか、皇帝陛下との仲はあまりよくないとか……)

 皇帝と皇妃は満月宮に住まいを持っているけれど、皇帝は他の妃の住まう宮で夕食をし、そのままそちらに泊まることが多いというのは、ヴィオラのような子供の耳にも届くくらいの噂になっている。

(……あれがティアンネ妃ね。公の場は、ティアンネ二妃殿下と呼ばなければいけないのよね)

 皇帝を挟み、皇妃とは反対側に座っているのがティアンネ妃だ。

 皇帝の妃とはいえ、皇妃とそれ以外の妃の間には明確な差がある。たとえば、皇帝の姓である『ヴァルツァー』を名乗ることができるのは、皇妃だけ。

 アデリナ皇妃は、アデリナ・ヴァルツァーであるのに対し、ティアンネ妃はティアンネ・セディーンと、生家の姓を名乗らねばならないのだ。

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