転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
そこに映っていたのは、黒髪黒目、平凡だけどまぁまぁ可愛らしい平均的日本人、三宅《みやけ》咲綾《さあや》の顔ではなかった。
淡い金色の髪は、寝起きだというのにちょうどいい具合にふわふわとしている。
大きな緑色の瞳。すっと通った鼻筋に小さな唇。
今はまだ可愛らしい少女であるけれど、大人になったらさぞや周囲が騒ぐことになるだろうと簡単に想像できる容姿だ。
(ど、どうして……?)
呆然としたまま、鏡にすがりつくみたいにして考え込んだ。
「ヴィオラ様、どうなさいました?」
部屋の外から、若い女の声が聞こえてくる。
(ヴィオラ、ヴィオラって……?)
その名前を聞いた瞬間、頭の中でパチリという音がしたみたいだった。パズルの最後の一片がはめこまれたように、記憶のすべてが一気にあるべき場所へとはめ込まれる。
そう、今の名前はヴィオラ・アドルナート。三宅咲綾ではない。
だけど、なんで。
どうして、今、この時に。
そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡った。
「ヴィオラ様、失礼しますね」
返事をしなかったことに焦れたのか、勝手に扉が開かれ、若い娘が入ってきた。
「妙な声が聞こえた気がいたしましたけれど……?」
彼女の身を包むのは、襟と袖口に白い布が使われている以外は、黒一色の地味な服。茶色の髪は首の後ろで一本にまとめられている。
「ご、ごめんなさい、ニイファ……私、気が動転していたみたいで」
「動転……?」
『ヴィオラ』の言葉を聞いたニイファは、首をかしげた。
その様子を見ながら、ヴィオラはなんとか時間を稼げないかと考える。
「お、お友達に、最後の手紙を書くのを忘れていたの。今日書いたら、明日には届けてもらえるかしら」
その言葉に、ニイファは目を大きく見開いた。彼女の瞳に、同情の色がありありと浮かぶ。
「ええ、もちろんですとも! すぐに手配をいたします。陛下との謁見を済ませたら、出立前にお手紙を書く時間を取りましょう」
「では、急いで支度をしないとね。着替えを用意してもらえるかしら」
「はい、ただちに!」
てきぱきと動き始めるニイファの様子を観察しながら、ヴィオラはこっそりとため息をついた。
(これって『詰んだ』ってやつじゃないの――!)
と、思ってしまっても仕方ないかもしれない。
だって、今日これから『ヴィオラ』はこの国を出て、オストヴァルト帝国に向かうのだ。
――人質として。
淡い金色の髪は、寝起きだというのにちょうどいい具合にふわふわとしている。
大きな緑色の瞳。すっと通った鼻筋に小さな唇。
今はまだ可愛らしい少女であるけれど、大人になったらさぞや周囲が騒ぐことになるだろうと簡単に想像できる容姿だ。
(ど、どうして……?)
呆然としたまま、鏡にすがりつくみたいにして考え込んだ。
「ヴィオラ様、どうなさいました?」
部屋の外から、若い女の声が聞こえてくる。
(ヴィオラ、ヴィオラって……?)
その名前を聞いた瞬間、頭の中でパチリという音がしたみたいだった。パズルの最後の一片がはめこまれたように、記憶のすべてが一気にあるべき場所へとはめ込まれる。
そう、今の名前はヴィオラ・アドルナート。三宅咲綾ではない。
だけど、なんで。
どうして、今、この時に。
そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡った。
「ヴィオラ様、失礼しますね」
返事をしなかったことに焦れたのか、勝手に扉が開かれ、若い娘が入ってきた。
「妙な声が聞こえた気がいたしましたけれど……?」
彼女の身を包むのは、襟と袖口に白い布が使われている以外は、黒一色の地味な服。茶色の髪は首の後ろで一本にまとめられている。
「ご、ごめんなさい、ニイファ……私、気が動転していたみたいで」
「動転……?」
『ヴィオラ』の言葉を聞いたニイファは、首をかしげた。
その様子を見ながら、ヴィオラはなんとか時間を稼げないかと考える。
「お、お友達に、最後の手紙を書くのを忘れていたの。今日書いたら、明日には届けてもらえるかしら」
その言葉に、ニイファは目を大きく見開いた。彼女の瞳に、同情の色がありありと浮かぶ。
「ええ、もちろんですとも! すぐに手配をいたします。陛下との謁見を済ませたら、出立前にお手紙を書く時間を取りましょう」
「では、急いで支度をしないとね。着替えを用意してもらえるかしら」
「はい、ただちに!」
てきぱきと動き始めるニイファの様子を観察しながら、ヴィオラはこっそりとため息をついた。
(これって『詰んだ』ってやつじゃないの――!)
と、思ってしまっても仕方ないかもしれない。
だって、今日これから『ヴィオラ』はこの国を出て、オストヴァルト帝国に向かうのだ。
――人質として。