転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
 現皇帝の妃――五人いるうちの一人――は、トロネディア王国の出身だ。

 彼女の願いもあったのか、帝国は、イローウェン王国に国境の争いを再開しない証拠として、王族を一人送るようにと命じてきた。

(オストヴァルト帝国に命じられたら断れないわよね。国の大きさが全然違うんだから)

 廊下を歩きながら、ヴィオラはなおも考えをまとめようとする。

 この国は属国ではないものの、帝国の勢力は無視できない。

 いや、逆らったならば、帝国は容赦なく蹂躙にかかってくるだろう。『咲綾』には、いまいちピンと来ていないけれど、『ヴィオラ』は、自分が行くことで安定するならば、と覚悟を決めていた。

 今、よみがえったばかりの記憶を整理すると、そういうことになる。それだけではなかった。

(それに、帝国には各国の王族貴族が集まっているのよね。『ヴィオラ』は、そこで生き残るつもりだったみたい)

 帝国の都にある皇宮には、大陸中から多数の王族貴族の子弟が集まっているという噂だ。

 帝国風の教育を受け、人質としての役割を終えた後は、皇族との縁談を繋ぐのもよし、帰国して、帝国と母国の絆となるもよしとされている。要は、それぞれの国の内部から帝国の味方を増やしていこうという算段なのだろう。

 戦争になれば多数の犠牲が出てしまう。そうすることで、平和になるのなら、帝国の取っている方針は、悪くはないのかもしれない。

(人質として帝国に行くのは、『私』にとっても悪いことじゃない……のよね? このままだと、殺されていたかもしれないんだから)

 ヴィオラは、今の王妃ザーラの娘ではない。前王妃の娘だ。

 両親が結婚する前から父の愛人だったザーラは、母が亡くなった後王妃の地位についた。

 父とザーラの間には、ヴィオラにとって異母兄となる王太子。それから、王女である異母妹と二人の子供がいる。

 この国は男女ともに王位継承権を持っているから、本来なら人質として帝国に送られるのは王位継承権が第三位の異母妹になるはずだ。それなのに、ヴィオラが帝国に行くことになったのは、ザーラにとってヴィオラが目障りな存在だからだ。
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