転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
「離れるな。俺と手を繋いでいろ」

「はい」

 一応、お忍びということで一般の市民と同じような服を着ていても、背が高いリヒャルトは市場の中でも目立っていた。リヒャルトはヴィオラと手を繋ぎ、歩いていく。

 セスともう一人の騎士は、上手に人込みに紛れてしまってどこにいるのかもわからないくらいだ。

(他の人達には、どう見えているのかな)

 すれ違う女性達がリヒャルトに目をとめ、それからその視線がヴィオラへと移る。微笑ましそうに口元を緩める彼女達からしたら、仲のいい兄妹に見えているのだろう。

「すごいですねえ、こんなにたくさんの食材が一度に並んでいるの初めて見ました」

 ヴィオラの国は小さいので、市場の規模も小さい。今までヴィオラが見たことがなかったような、珍しい食材がいろいろ並んでいる。



「あちらに、ミナホ国からの商人を相手にする店が出たらしい。まずは、そこだな」

 リヒャルトがヴィオラを連れて行ったのは、市場の端にある店だった。露店に並んでいる小さな店の中でもひと際こぢんまりとしている。ミナホ国の食材を扱う店は、ここ一軒しかないのだそうだ。

「この中に、母上の菓子を作る食材はあるか?」

「んー……」

 前世では何度も見た食材が並んでいる。樽の中に入っていたり、壺に入れられていたり、藁で包まれていたりと、包装は前世のそれとまったく違うけれど。

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