わたしのいじわる王子さま
「なぁ、春奈」

「なに?」


私の名前を呼ぶその声が、私を優しく包み込んで、さっきまで私の心を覆っていた黒いモヤモヤが、スーッと溶けてなくなっていく。


「俺はおまえが好きだ」


珍しく余裕のないその顔に、

離されることのない右手に、

そらされることのない澄んだ瞳に……。


「早く素直になれよ」


もう、私は抵抗する術がない。


本当は初めから、好きだったの。

私にだけ意地悪な杉浦くんの優しさを知りたくて、私には向けられたことのない笑顔で、私にも笑いかけて欲しくて……。

気付けばずっと、杉浦くんのことばかり考えていた。


「ほら、早く言えば?」


こんなときだって言うのに、上から目線でものを言う杉浦くんがムカつくけど。


もう、誤魔化したりしない。もう、この手を離したりしない。

ギュッと力を込めて杉浦くんの手を握り返せば、少しだけ驚いたように杉浦くんが目を見開いた。


「私もずっと杉浦くんだけ見てた」


それだけ言って、恥ずかしさのあまり顔を伏せたけれど……。

なんとなく顔を見なくても、杉浦くんが意地悪く笑ったのが分かって、余計に私を恥ずかしくさせる。


もうこうなればヤケクソだ。
どうせ杉浦くんには、とっくに私の気持ちなんバレバレだったみたいだし。


今さら何を恥ずかしがったって……伝えなければ始まらない。
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