氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
如月は朔と晴明の長期滞在をとても喜んだ。

一緒に集落へ行って美味しそうなものを買って皆で食べて――そんな当たり前のひと時がとても嬉しくてたまらないらしく、普段あまり笑わない如月はよく笑顔を見せた。

それもこれも朧と氷雨が遊びに来たからこうなったわけで、末妹を撫で回した如月は、随分顔色が良くなった泉と顔を見合わせて笑った。


「ああ…実家に居る時のような気分だ」


「泉の体調がもう少し落ち着いたら幽玄町に来ないか?今は父様と母様が守って下さっているが、お前と長い間ゆっくり話をしていないと寂しがっていた」


「そう…ですか。…私は両親とあまり折り合いが良くないので…喜んでもらえるでしょうか」


「父様は幼いお前を無理矢理嫁に出したことを今も悔いている。鬼頭家が呪われて以来はじめて生まれた娘なんだから、ずっと長い間手元に置いて可愛がりたかったはずだ」


…ここで皆の視線が氷雨に集まり、氷雨が悪いわけではないのに責められている気分になった氷雨は、何となく頭を下げた。


「ご…ごめん」


「第一思春期で男に一番興味のある時期にこういう男を傍に置いたのがいけなかったな。お前たちが悪いんじゃない。頭を下げるな」


「十六夜もさすがに舞い上がっていたのだよ。鬼頭の歴史上長い間娘に恵まれなかった故に娘の育て方を知らなかったからねえ」


今や朔の弟や妹には娘も産まれていて、完全に鬼八の呪いから解き放たれた。

朧は団子を頬張りながら、父や母、そして如月の苦悩を想像して隣の氷雨の手を握った。

だが如月はそんな心優しい末妹に柔らかく微笑むと、懐から一通の文を取り出して朔に見せた。


「朔兄様、ここから少し離れた場所にある集落でおかしなことが起きているようなのです。明日見に行ってもらえますか?」


「ん、分かった。百鬼夜行から帰って来たら見に行ってみる」


「主さま、俺も行くぞ」


「私も」


氷雨も文を覗き込み、その日内容を精査して明日その集落を見に行くことに決めた。
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