氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
「半妖を哀れとは思いますが、どうするおつもりですか?」


「今の所放逐は考えていない。お前だって半妖の末路は知っているだろう?」


「そうですが…ではいずれ百鬼に加えるつもりなのですか?」


「それについてはお祖父様に診て頂く必要がある。人を食う系でなければいいが、もし妖としての血が発露すれば…俺はそれを正さなくてはいけない。…嫌な役回りだ」


「いやあ、お待たせしたかな?」


重たい空気が流れる中、晴明が軽やかな声と共に部屋に入って来た。

あからさまにほっとした顔をした朔と目が合った晴明は、きょろりと辺りを見回して首を傾げた。


「何か…何だろうね、客が来てるのかな?」


「お祖父様、実は…」


杏に乳を分けてもらうため離席している氷雨と朧はまだ戻って来て居なかったが、朔はなるべく詳細に経緯を説明して綺麗な形の唇をきゅっと引き結んだ。


「ですのでお祖父様に良いものかそうでないものなのか診て頂きたくて…」


「ふむ、それでこんな妙な気配を感じたのだね。半妖か…朔、同じ境遇故同情することもあるだろうが、実際そなたの目に届かぬだけで半妖はそこらに居る」


「え…そうなんですか?」


「目立たぬよう息を潜めて生きている者も居れば、私のように大手を振って生きている者も居る。容姿の影響もあるだろうけれど、大抵は妖の方の血が濃すぎて妖側に容姿が偏り、人のなりをしていない者が多い」


それを聞いた朔は、現実を目の当たりにして多少胸は痛めたが、百鬼夜行の当主として目に強い光を宿して背を正した。


「その赤子が父に似ているのならば…将来人を食う可能性が高い。とにかく診てみよう」


「お祖父様…朧がすでに感情移入していて…」


そうだろうね、と呟いた晴明は、烏帽子を取って足を崩した。


「とにかく戻りを待とう。なに、悪いようにはせぬよ、私に任せなさい」


朔と如月の表情が和らいだ。

孫たちの心を軽くするため、朧たちが戻るまで談笑しながらこのおかしな気配に違和感を覚えつつも顔に出さず笑みを湛え続けた。
< 109 / 281 >

この作品をシェア

pagetop