氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
小さな小さな赤子はとても可愛くて、早く氷雨との子が欲しいという思いが深まっていった。
潰れないように優しく抱きしめて眠っていると、その体温の高さに寝不足気味だった朧は深い眠りについていた。
――赤子は眠っている朧をじいっと見つめていた。
もう目は見えていて、ひたすらじいっと見つめていた。
この世話をしてくれる女は、母ではない――
まだ思考力の乏しい赤子は、それでも何故か居ない母の代わりに自分を世話してくれる女だと認識した。
愛してもらわなければ。
慈しんでもらわなければ。
今は傍に居ない、母の代わりに――
「ん…」
「ん、起きたか。ぐっすりだったな」
「氷雨さん…お帰りなさい…。私いつの間に寝ちゃってたんだろ」
朧が起きると同時に赤子が威勢よく泣き出し、朧が指を伸ばすとその指をぎゅうっと握ってその握力に朧が驚いて声を上げた。
「わっ、指の力すごい」
「半分は鬼だからなー。お前の母ちゃん、弔ってやったから安心しろよー。朧、そろそろ乳をやらないと」
「お乳…私から出たらいいのに」
茶を飲んでいた氷雨が思わずむせると、朧は唇を尖らせて抗議した。
「だってそうすれば杏さんに分けてもらわなくて済むし…」
「駄目!まだそれは俺の!」
朧の胸をまさぐる赤子の小さな手を大人気なく剥ぎ取った氷雨は、頬を赤く染めた朧の顎を取って上向かせた。
「悪いけどお前は俺のなの。子が産まれたら俺は二番手でいいけど、それまでは俺の!こいつに渡すもんは何一つ無し!」
「童みたいなこと言わないでっ」
「もし俺を蔑ろにして赤子ばっか構うと…いや、なんでもない」
「!なんですかっ?どうなるの!?」
「べっつにー」
焦る朧に乳の入った容器を押し付けてわざとその場を離れた。
こうして釘を刺しておかないと本当に奪われかねない。
「俺って新婚じゃなかったっけ?」
そう呟くのも仕方なかった。
潰れないように優しく抱きしめて眠っていると、その体温の高さに寝不足気味だった朧は深い眠りについていた。
――赤子は眠っている朧をじいっと見つめていた。
もう目は見えていて、ひたすらじいっと見つめていた。
この世話をしてくれる女は、母ではない――
まだ思考力の乏しい赤子は、それでも何故か居ない母の代わりに自分を世話してくれる女だと認識した。
愛してもらわなければ。
慈しんでもらわなければ。
今は傍に居ない、母の代わりに――
「ん…」
「ん、起きたか。ぐっすりだったな」
「氷雨さん…お帰りなさい…。私いつの間に寝ちゃってたんだろ」
朧が起きると同時に赤子が威勢よく泣き出し、朧が指を伸ばすとその指をぎゅうっと握ってその握力に朧が驚いて声を上げた。
「わっ、指の力すごい」
「半分は鬼だからなー。お前の母ちゃん、弔ってやったから安心しろよー。朧、そろそろ乳をやらないと」
「お乳…私から出たらいいのに」
茶を飲んでいた氷雨が思わずむせると、朧は唇を尖らせて抗議した。
「だってそうすれば杏さんに分けてもらわなくて済むし…」
「駄目!まだそれは俺の!」
朧の胸をまさぐる赤子の小さな手を大人気なく剥ぎ取った氷雨は、頬を赤く染めた朧の顎を取って上向かせた。
「悪いけどお前は俺のなの。子が産まれたら俺は二番手でいいけど、それまでは俺の!こいつに渡すもんは何一つ無し!」
「童みたいなこと言わないでっ」
「もし俺を蔑ろにして赤子ばっか構うと…いや、なんでもない」
「!なんですかっ?どうなるの!?」
「べっつにー」
焦る朧に乳の入った容器を押し付けてわざとその場を離れた。
こうして釘を刺しておかないと本当に奪われかねない。
「俺って新婚じゃなかったっけ?」
そう呟くのも仕方なかった。