氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
赤子の夜泣きは続いた。

氷雨は慣れっこだったためどうということはなかったが――朧は堪えるらしく、まだ精進が足りないとぽつりと零した。


「だってお前まだすっげえ若いんだし、精進が足りないんじゃなくて人生経験がまだ短いだけなんじゃね?」


「そうでしょうか…?あの、氷雨さん…」


最近――というよりも、この赤子を拾って七日程経ったが、この七日間、氷雨に抱かれていない。

子を望んでいて毎日でも抱かれたいのに、今それが叶わない――

その矛盾した状況がずっと続いていて、隣で朔宛てに届く文の選り分けをしていた氷雨に手を伸ばして触れようとしたところ、それまで静かだった赤子が火が付いたように泣き出した。

思わず手を引っ込めたが、氷雨は泣き出した赤子の鼻をちょんと突いて立ち上がった。


「氷雨さん?」


「俺さ、こいつにいいもん作ったんだ。お前の負担も少し軽くなるはず」


「え?え?」


訳が分からず目を白黒させる朧を残して部屋を出て行った氷雨を待っていると、数分後戻って来た氷雨の手には、籐で編まれた揺り籠が。

得意げな顔の氷雨はそれを畳の上に置いて少し揺らしてみせると、泣き続けている赤子を揺り籠に乗せて手で優しく揺すってみせた。

するとだんだん泣き声が小さくなり、最後には指を吸って大人しくなった。


「すごい…。揺り籠?氷雨さんが作ったの?」


「おう、言っとくけどお前たちが小さかった頃も俺お手製の揺り籠でぐっすりだったんだぜ。これに寝かせとけば腕も疲れないし、ひとりでも寝てくれると思う」


触れ合う時間が極端に減っても、氷雨は怒らず呆れず、いかに負担を減らすか考えてくれていた。


「氷雨さん…嬉しい」


「あと真名な。そろそろ決めてやらないと呼びづらいもんなー」


揺り籠を優しく揺らしてやっているうちに、赤子は眠ってしまった。

角は相変わらず露出しているまま。

そして牙も生え始めて、成長の速さを窺わせた。
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