氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
幼い頃は癇癪持ちで乱暴で粗暴で、とにかく暴れ回っていた印象しかない。

生け花もやらず、書道もやらず、ひたすら兄たちの背を追って木刀を振るい続けていた。

初の女の子に恵まれ、呪いが解けたと確信した希望の子――

その子は今、十六夜の前で唇を引き結んで正座していた。


「…朧の祝言の時以来だな」


「はい。このような形でまたお目にかかるとは思っていませんでしたが…父様たちもお元気そうで」


如月の隣には婿の泉が守るようにぴったりくっついて座っていた。

じゃじゃ馬で誰にも馴らすことのできなかった如月を嫁にと申し出て来た奇特な男だと思っていたが――今やふたりは真の夫婦となり、真っ直ぐ目を見据えてきていた。


「……如月、お前はもういつでもここに戻って来ていいんだ。………つまり…その…」


「?」


もごもごと何か言いにくそうにしている十六夜をじっと見つめていると、十六夜の隣に戻って来た息吹が愛する夫の膝をぽんと叩いた。


「つまり、‟ごめんなさい”ってこと!」


「…おい、息吹…」


「親子喧嘩する間もなく如ちゃんをお嫁に出しちゃって誰が一番傷ついたと思う?父様なんだよ。あなたを手放したくなかったけど、そうせざるを得なかったの。お嫁に出した後も毎日のように文を書いては捨てての繰り返し。だから如ちゃん、もう許してあげてもらえない?」


――それはこっちの台詞だ、と言いかけて、胸が痞えてその言葉が出てこなかった。

父と娘言葉もなく見つめ合っていると、泉は如月の緊張して冷たくなっている手をきゅっと握った。


「お義父さん、今日は如ちゃんが料理を作ってくれるそうです。最初は食べれたものじゃなかったけどすごく努力して上手になったんですよ」


「!よ、余計なことを言うな!」


「…そうか、楽しみにしている」


「…父様…」


「はい!そうと決まれば女の子たちは台所に集合!きゃーっ、楽しみ!」


息吹の黄色い声に十六夜の頬が緩んだ。

如月もまた温もりの戻ってきた手で泉の手を握り返した。
< 129 / 281 >

この作品をシェア

pagetop