氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
この赤子は脅威となるのか――?

珍しくも…というか、晴明と十六夜の杞憂は一致しており、ふたりして揺り籠の中で眠っている赤子を隅々まで調べていた。


「もう牙が生えている。半妖と言えど早すぎる気がする」


「…朔たちの時はもう少し遅かった。一度でも朧に噛みつけば…」


「そなたが粛正するかね?孫のためならば私の手が血に濡れても構わぬが」


「いい、俺がやる」


常に不機嫌な十六夜の態度は晴明にとって慣れたもので、扇子で顔を扇ぎながら赤子の小さな角をつまんだ。


「これは隠せぬ。人の世ではまず生きられぬが、人食いでなかった場合どうする?」


「…ここには置かない。面倒ごとはごめんだ」


ふむ、と呟いた晴明は、幼い頃父母と死別して十六夜に引き取られて育った。

特に何かを指南されたわけではないが、危険な場には一切関わらせないことは昔から一致しており、つい含み笑いを浮かべて気味悪がられた。


「…なんだ」


「いやいや、なんでもないよ。しかし朧たちはあまり新婚旅行を楽しめぬまま帰ってきたが…ひ孫の顔を見るのはまだ先かねえ」


「……恐ろしい想像をさせるな」


「雪男との子だよ?当然美しく強く、そなたの家をさらに繁栄させるべく一役も二役も買ってくれるだろう」


ぷいっと顔を背けた十六夜は、苦々しく思いながら煙管を噛んでぼそりと呟いた。


「…そんなことは分かっている。俺が危惧しているのはこれの存在だけだ」


妙な波長を感じる。

半妖というだけでなく、赤子から漏れ出る妙なものは、常に神経を張り巡らせている晴明と十六夜しか気付いていなかった。


半妖は生きにくい――

我が子たちは望んで産まれてきたけれど、この赤子は――


「…哀れだが、その時は仕方がない」


「うむ」


ふたり結束して、目を離さぬよう約束し合った。
< 136 / 281 >

この作品をシェア

pagetop