氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
生まれ育った屋敷に戻って来た如月は、父母とのわだかまりもなくなって氷雨いじりと泉の治療に専念していた。

幽玄町に戻って来てひと月――

その間に望と名付けられた赤子の首は据わり、牙もしっかり生えてひとりでちょこんと座れるようになっていた。

生後半年といったところか――半妖と言えどやはり成長は速く、朧にも随分懐いて馴染んでいた。

元々は自分が持ち込んだ災いの種だったため、如月は十六夜たちに注意されずとも自ずと自然に望の行動を注視するようになり、朧の胸に抱かれてご満悦の望を見て氷雨にぼそり。


「貴様…子作りはしているんだろうな?」


「は?なんだよ急に…」


「あれの世話で子が出来ないと言うなら今すぐ奪い取ってどこかに捨てて来る。私の質問に答えろ」


目が据わっている如月に詰め寄られた氷雨は、手に持っていた箒を柱に立てかけて腰に手をあてて息をついた。


「まあしてはいるけど…あいつが起きてる時朧に近付こうとすると泣くんだよな。なんであんまり夫婦の時間はないっつーか」


「…やっぱり捨てて来よう」


「待て待て!」


すくっと立ち上がって朧から望をもぎ取ろうとした如月の首根っこを慌てて掴んだ氷雨は、確かに最近少し疲れ気味の朧が気になっていたものの、睨んでくる如月に首を振った。


「もうちょっと様子を見よう。俺がちゃんと見とくから」


…と言った傍から、望が朧の指を口に含もうとしてつい腰を浮かした。

もし本気で噛んで血を啜ったりするようであればすぐ制裁しなければならず、詰め寄ろうとした時――望が朧の指を口に含んでちゅうちゅう吸っているのを見て肩で息をついた。


「なんだ…乳が欲しいだけか」


「目を離すな」


吐き捨ててその場を去った如月を見送った氷雨は、朧の隣にすとんと座り直して朧の指を吸っている望の頭に手を乗せた。


「どうすっかなあ…」


朧の疲労が気になっていた。
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