氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
暗がりの中、氷雨の目は青く光っていた。

身動きする度にその軌跡が蛍の光のように見えて、こんな美しい男に好かれる女はなんて幸せ者なんだろう、と羨ましく思った自分を不思議に思っていた。


「あの、望は…」


「銀と天満が世話してるから気にすんな。それよかお前なんか顔が赤いんだよな。熱っぽいのか?」


あなたに見惚れているからです、とは言えずにもぞもぞしていると、氷雨は壁にもたれ掛かって座ったまま掌をじっと見つめた。

すると――掌から青白く光る六角形の氷の結晶が舞い始め、宙をふわふわ浮遊して朧を喜ばせた。


「きれい…!」


「寒くなったら言えよ。お前これが好きでさあ……あ、いや、なんでもない」


氷雨が漏らしたその一言は、かつて自分が氷雨と親しくしていたという含みがあった。

一体自分たちがどんな関係だったのか――それをどうしても知りたくなった朧は、わざと咳き込むふりをして慌てた氷雨を駆け寄らせた。


「朧、大丈夫か?」



半ば覆い被さるようにして顔を覗き込んできた氷雨の袖を引いて布団の中に強引に連れ込んだ朧は、目を白黒させている氷雨の美貌が至近距離にあって息ができなくなりそうになりながら、軽く胸を叩いた。


「私は、あなたのなに?」


「…先代の娘で、主さまの妹」


「そういうのを訊きたいんじゃないんです。私は…あなたにとってどんな存在?朔兄様たちの妹じゃなかったら…目にも留めない存在?」


恋に燃えた目をしていた。

氷雨は、記憶を無くしながらもまた惚れてくれたことに多大な安堵と多幸感に包まれたものの、関係性を問うてくる朧の顔にぐっと顔を近付けて見開かれた大きな目を見つめながら低い声で囁いた。


「なんて言ってほしい?」


「え…」


見つめ合う。

時が、止まった。
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