氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
綾乃を埋葬した場所は振り氷雨が覚えていたため、比較的速やかに埋葬することができた。

本当に天涯孤独の身になった望はまたくずって朧を困らせたものの、晴明の腕に抱かれると大人しくなり、朧は少し寂しい気持ちになって氷雨の手を握って墓標の前に立った。


「寂しいな…」


「寂しいっつうか、お前ひどい目に遭ったんだからな。俺も主さまもめっちゃ心配してどれだけ右往左往させられたか!後で覚えとけよ、長い説教してやる」


「うっ、悪阻が」


「嘘つけまだ悪阻に苦しむ時期じゃねえだろ」


ぺちんと後頭部を軽く叩かれた朧は、天満に続いて次は如月夫婦と別れなければならず、言葉に詰まって目を潤ませていた。


「如月姉様、またすぐお会いできますよね?」


「ああ、臨月になったら実家に戻って産むことにするよ。朧、無理をせず雪男をこき使ってなんでもしてもらいなさい」


ふふっと笑った朧の頭を撫でた如月たちと別れた朧は、夕暮れが近付いてきて空を見上げていた朔に負担をかけさせまいと自ら朧車に乗り込んだ。


「朔兄様、早く帰りましょう」


「ん。父様たちに報告した後皆で夕食を食ってから出ようかな」


「朔、今夜は俺が代行してもいいぞ」


銀に提案されたものの朔は首を振り、まだ墓標を見つめている氷雨の背中を結構な勢いで叩いた。


「いてっ」


「朧が無事出産するまでお前は四六時中朧の傍に居ろ。お前の代行は違う者にやらせる」


「は?俺やること無くなるじゃん。死ねっつってんのと同じなんだけど」


「分かった。俺が朧の傍に居ればお前も必然的に傍に居ることになる。日時業務を頼んだぞ」


「了解」


幽玄町に帰るため、また朧車に乗り込んで空を駆けた。

超のつく過保護の兄と夫に挟まれてぬくぬくしながら、両手で腹を包み込んで目を閉じた。
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