氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
十六夜と息吹は夕暮れ前に帰ってきた朔たちを庭で出迎えた。
朧が身籠ったことは朔からの文で知ってはいたのだが、本人の口から聞きたいと知らないふりを決め込んで笑顔で朧の頭を撫でた。
「お帰りなさい。朧ちゃん顔色が戻ってる」
「母様、ご迷惑をかけてごめんなさい。あとお話したいことがあって…」
「えっ!?な、なんのことだろ?とにかく中に入って」
隠し事の苦手な息吹がつい口ごもると十六夜が咳払いして氷雨にくいっと顎を引いて中へ促した。
「…怪我はさせていないだろうな」
「みんな無傷だから心配すんなって」
ーー氷雨の雰囲気が何か違うことにすぐ気付いた十六夜が脇を通り過ぎていく氷雨の背中を訝しげな表情で見つめていると、朔が背後からひそりと囁いた。
「お祖父様曰く、水など氷雪系の力を完全に掌握したとか声が聞こえるとか」
「……なに?それは…」
最強じゃないか、と言いかけてなんだか癪で言葉を飲み込んだ十六夜も後を追って屋敷内に入ると、氷雨と朧は畏まって上座の前で待ち受けていた。
「話とはなんだ」
「ええと…そのー、俺…いや、俺たちに…子ができたんだ」
「えっ、そうなの!?知らなかった!おめでとうっ、雪ちゃん朧ちゃん!」
実の所朔の文ですでに感激して大泣きしていた息吹が目を潤ませて祝福したものの、もっと大きく反応してくれるものと思っていた氷雨はそれでぴんときて、背後に座っていた朔を肩越しに振り返った。
「先に報告してたな?」
「ばれたか。母様が取り乱して大騒動にならないよう先に知らせておいた」
悪気もなく爽やかににこっと笑った朔を薄目で睨んだ氷雨だったが、普段鉄面皮の十六夜の口角が柔らかく笑んでいるのを見て少し笑った。
「産まれたら可愛がってくれるよな?」
「…さあ、分からないな」
そう毒づいたものの、万物を司る一部の力を得た氷雨に密かに敬意を払いつつ、その手に盃を握らせた。
朧が身籠ったことは朔からの文で知ってはいたのだが、本人の口から聞きたいと知らないふりを決め込んで笑顔で朧の頭を撫でた。
「お帰りなさい。朧ちゃん顔色が戻ってる」
「母様、ご迷惑をかけてごめんなさい。あとお話したいことがあって…」
「えっ!?な、なんのことだろ?とにかく中に入って」
隠し事の苦手な息吹がつい口ごもると十六夜が咳払いして氷雨にくいっと顎を引いて中へ促した。
「…怪我はさせていないだろうな」
「みんな無傷だから心配すんなって」
ーー氷雨の雰囲気が何か違うことにすぐ気付いた十六夜が脇を通り過ぎていく氷雨の背中を訝しげな表情で見つめていると、朔が背後からひそりと囁いた。
「お祖父様曰く、水など氷雪系の力を完全に掌握したとか声が聞こえるとか」
「……なに?それは…」
最強じゃないか、と言いかけてなんだか癪で言葉を飲み込んだ十六夜も後を追って屋敷内に入ると、氷雨と朧は畏まって上座の前で待ち受けていた。
「話とはなんだ」
「ええと…そのー、俺…いや、俺たちに…子ができたんだ」
「えっ、そうなの!?知らなかった!おめでとうっ、雪ちゃん朧ちゃん!」
実の所朔の文ですでに感激して大泣きしていた息吹が目を潤ませて祝福したものの、もっと大きく反応してくれるものと思っていた氷雨はそれでぴんときて、背後に座っていた朔を肩越しに振り返った。
「先に報告してたな?」
「ばれたか。母様が取り乱して大騒動にならないよう先に知らせておいた」
悪気もなく爽やかににこっと笑った朔を薄目で睨んだ氷雨だったが、普段鉄面皮の十六夜の口角が柔らかく笑んでいるのを見て少し笑った。
「産まれたら可愛がってくれるよな?」
「…さあ、分からないな」
そう毒づいたものの、万物を司る一部の力を得た氷雨に密かに敬意を払いつつ、その手に盃を握らせた。