氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
都である平安町と隣接する幽玄町の周囲には何重もの結界が張られてある。
それは晴明のものだったり朔のものだったり、そして初代のものだったりするわけで、敵意を持って侵入すればすぐに知れるものとなっていた。
よって氷雨が始終根を詰めて警戒しなくてはならないものではなく、意外とのんびり過ごせる。
ただどちらかといえばのんびりではなく、戦うことが好きな気性の氷雨は、時々朔に連れられて百鬼夜行に出る。
「あーまた戦いてえなー」
夕餉の片づけを終えた朧が居間に戻ると、手招きした氷雨はまだむっつりしている朧の膝枕にあやかって真っ青な目でじっと見上げた。
朧がこの目に弱いことを十分に知っている上での作戦で、案の定みるみる顔が赤くなってきてつんと顔を逸らされた。
「鬼陸奥でのお前、女傑でかっこよかったなあ。あれで初陣とかほんと鬼頭の家の者は恐ろしいぜ」
「…そんな恐ろしい女をお嫁にしたのを後悔してるんですか?」
「ぶはっ、褒めてんのになんで怒ってんの?惚れ直したって言ってるんだよ」
「嫉妬ばかりする怖い女だと思ってるんでしょ?呆れてるんでしょ?」
突っかかってくる朧だったが、氷雨は一切腹を立てることなく体勢を変えて朧の腰に腕を回して抱き着くと、やわらかい膝に頬ずりをして目を閉じた。
「怖い女と思ってないし呆れてもないけど、まあ俺がこうして主さまの傍に居る間は我慢してもらわなきゃいけないこともある。だから俺はなるべくお前がいらいらしないように頑張るからさ、ごめんな」
…氷雨に謝ってもらおうとは思っていないけれど、責めたことを後悔した朧は、氷雨の真っ青でいてさらさらの髪に指を潜らせると、小さな声で謝った。
「私の方こそ…ごめんなさい」
「俺はお前に色目使う奴を痛い目に遭わせるけどお前は駄目だからな、俺を怒ってもいいから」
「はい」
温かい風が吹いた。
人気のない屋敷でふたり、ほんの少し新婚気分に浸って唇を重ねた。
それは晴明のものだったり朔のものだったり、そして初代のものだったりするわけで、敵意を持って侵入すればすぐに知れるものとなっていた。
よって氷雨が始終根を詰めて警戒しなくてはならないものではなく、意外とのんびり過ごせる。
ただどちらかといえばのんびりではなく、戦うことが好きな気性の氷雨は、時々朔に連れられて百鬼夜行に出る。
「あーまた戦いてえなー」
夕餉の片づけを終えた朧が居間に戻ると、手招きした氷雨はまだむっつりしている朧の膝枕にあやかって真っ青な目でじっと見上げた。
朧がこの目に弱いことを十分に知っている上での作戦で、案の定みるみる顔が赤くなってきてつんと顔を逸らされた。
「鬼陸奥でのお前、女傑でかっこよかったなあ。あれで初陣とかほんと鬼頭の家の者は恐ろしいぜ」
「…そんな恐ろしい女をお嫁にしたのを後悔してるんですか?」
「ぶはっ、褒めてんのになんで怒ってんの?惚れ直したって言ってるんだよ」
「嫉妬ばかりする怖い女だと思ってるんでしょ?呆れてるんでしょ?」
突っかかってくる朧だったが、氷雨は一切腹を立てることなく体勢を変えて朧の腰に腕を回して抱き着くと、やわらかい膝に頬ずりをして目を閉じた。
「怖い女と思ってないし呆れてもないけど、まあ俺がこうして主さまの傍に居る間は我慢してもらわなきゃいけないこともある。だから俺はなるべくお前がいらいらしないように頑張るからさ、ごめんな」
…氷雨に謝ってもらおうとは思っていないけれど、責めたことを後悔した朧は、氷雨の真っ青でいてさらさらの髪に指を潜らせると、小さな声で謝った。
「私の方こそ…ごめんなさい」
「俺はお前に色目使う奴を痛い目に遭わせるけどお前は駄目だからな、俺を怒ってもいいから」
「はい」
温かい風が吹いた。
人気のない屋敷でふたり、ほんの少し新婚気分に浸って唇を重ねた。