氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
数日経ったとある朝――朧は猛烈にがっかりしていた。

それもこれも…


「月のもの…来ちゃった……」


月に一度のものが来てしまい、子を腹に宿すことができなかった朧は酷い腹痛と戦いながら部屋の隅でじっと座っていた。

氷雨と夫婦になってから毎日のように可愛がってもらっているというのに、この体たらく。

もしかして妊娠しにくい体質なのだろうかと不安で涙目になった時――氷雨が部屋に入って来た。


「朧…どうした?居間に来ないから主さまも心配してた。…顔色悪いな、具合悪いのか?」


青白い顔をしている朧を心配した氷雨が傍に座って手を握るとその手も冷たくて、摩って温めてやりながら思い悩んでいる風の朧の顔を覗き込んだ。


「朧?」


「…お腹が痛くて…」


――一瞬考えた氷雨は、朧が月に一度こうして数日間苦しむ時期があることを知っていて、ああと小さく呟いて朧を抱き寄せて腰の辺りも摩ってやった。


「ちょっと待ってろ、温石持って来てやるから」


「お師匠様…赤ちゃん…できなかったですね…」


「んん、まあこの前も言ったけど大体新婚だし、すぐできるってもんでもないと思うぞ?あーそうだ、晴明に相談してみろよ。確か息吹は晴明に相談して身体を温めやすい薬湯とか飲んでた」


「!私、お祖父様に文を出して見ます」


「おう、そうしろ。じゃあちょっと待ってろよ、すぐ戻って来るから」


羽織を着せられてまたじっとしていると、しばらくして熱した温石を手拭いで包んだものを氷雨が持って戻って来た。

数日はこれが欠かせず、腰に巻いてもらうと身体が温まってきて痛みも少し和らいだ。


「女ばっかり痛い目に遭うのって男の俺が言うのもなんだけど、不公平だよな。どこか摩ってやろうか?なんか手っ取り早い方法ないかな……あっ、そうだ!」


突然大きな声を上げてすくっと立ち上がった氷雨を見上げた朧は、したり顔で朧の頭を撫でてそそくさと部屋を出て行こうとした。


「お師匠様…?」


「ちょっと待ってろ!いい案がある!」


腹が痛くてあまり喋れない朧は、自分のために氷雨が何かしてくれようとしているのが嬉しくて、ゆっくり頷いた。

そしてこの後氷雨はあちこち走り回って、とあるものを持って帰って来た。

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