氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
戻って来た氷雨は抱えきれないほどの大きな掛布団を持っていて、首を傾げた朧ににかっと笑って見せた。


「天満の所で入っただろ?ここに炬燵を置こうと思ってさ」


「え…炬燵っ?」


「おう、今から机運んでくるけど、机に掛布団広げて天板で押さえれば出来上がり!中に熱した温石沢山入れとけばいつでも入れるし。身体すぐあったまるし。あーもっと早く気付けば良かった」


そういえばこの屋敷は大きいけれど炬燵がない。

それもこれも居間には囲炉裏があり、各部屋に火鉢も沢山あるためあまり必要としていなかったのだが、天満の家で炬燵を体験した朧は、屋敷にも炬燵があればいいなと密かに思っていた。


「炬燵!嬉しい!」


「机と天板持ってくるから待ってろ」


わくわくして思わず腰を浮かして待っていると、大きめの炬燵専用の机と天板を持って来た氷雨は、手際よくそれを夫婦憩いの部屋の中央に組み立てて完成させた。


「わあ…お師匠様、嬉しいっ。私のために…」


「お前のためならなんでもやるよ。腹が痛いのも炬燵に入ってれば緩和するだろうし、俺もいつでも摩ってやるから」


「お師匠様、一緒に入ってくれますよね?温石あまり熱くしなかったら入れるでしょ?」


「おー、いいぞ。でもこれ主さまに見られたらさあ…」


「もう見た」


「うおっ!?」


いつの間にか出入り口に立っていた朔に飛び上がった氷雨は、完成したばかりの炬燵に早速入って嬉しそうにしている朧を見て頬を緩めた。


「俺が見たらなんだと言うんだ?別に入り浸ったりしない」


「朔兄様!一緒に入りませんか?」


「うん」


入り浸る気満々じゃん、と内心思いつつも机の上に蜜柑や茶を置いてやった気配り上手な氷雨も炬燵に入って三人で寛いだ。
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