氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
氷雨が用意してくれた炬燵はとても居心地が良くて、熱した温石をいくつか炬燵の中の中央に加護に入れて置くとぽかぽかあったまって本当に気持ち良かった。

ただし氷雨は氷属性のため温石を入れるとどうしても長時間入っていることはできず、縁側に座って朧が気持ちよさそうにしているのを見て満足していた。


「お師匠様、お腹痛くなくなってきたかも」


「そら良かったな。あと晴明呼んでおいたから、ちゃんといつもどこが痛むとか言うんだぞ」


…気配り上手すぎて思わず吹き出してしまった。

茶が冷めると熱いものを淹れてくれるし、一緒に炬燵に入ってほしいと我が儘を言うとまだまだ童だなと笑いながらも一緒に入って抱きしめてくれる。


「私って本当に素敵な旦那様に巡り合えたんですね」


「へへっ、よせよ照れるだろ」


「本当だもん。私もお師匠様に素敵なお嫁に巡り合えたと思ってもらえるように頑張りますね」


「いや大丈夫、もう思ってるし」


いつもは居間で朔とやっている文の選り分け作業を炬燵のある夫婦憩いの部屋の縁側でやって見守ってくれている氷雨。

時折強く痛んで声が出てしまうとすぐ腰や背中を摩ってくれて抱きしめてくれる優しさ。

頼りたくなって甘えてまうけれど、氷雨は文句ひとつも言わず思いきり甘やかしてくれる。


「お、晴明が来たぞ。ここに連れて来るから待ってろ」


「はい」


身体を起こして炬燵の机に顎を乗せていると、晴明を連れて戻って来た。

…この祖父もまた、孫に激甘だ。

薬箱を手に微笑みを湛えて朧の傍に座った晴明は、腕を組んで立っていた氷雨を見上げてまず一言。


「私の可愛い孫を悲しませてはいないだろうね?」


「ははは…努力してます…」


聞き飽きて苦笑して晴明の隣に座った。
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