氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
恋をしたのははじめてではない。
最初から実るはずがない恋をして独り善がりに苦しんだ年月は長かったが、恋が実らなかったから積極性を失ったわけではない。
しかも同種族ではない特異な恋は氷雨をさらに積極的にさせていた。
幾多の障害も、これまた然り。
「朔兄様いつまで居てくれるんでしょう?いっそこの際新婚旅行の間ずっと…」
「ずっと?冗談だろ?」
朔を百鬼夜行に送り出した後、縁側で朧と月夜を眺めていた氷雨は、朧のとんでも発言に白い歯を見せてはにかんだ。
それだけで朧はぽうっとなったが、気を引き締めて人用の酒を少し飲むと、なるべく氷雨と目を合わさないように月夜を見上げながら少し早口に理由を述べた。
「だって氷雨さんは朔兄様が心配でしょ?朔兄様も氷雨さんが居ないと落ち着かないみたいだし、だから私…」
「第一ここに来たのは新婚旅行だし、主さまのことは心配だけど俺の目的は…」
朧が目を合わさないようにしていることを察していた氷雨は、腰を強く抱いて引き寄せると、耳元でこそりと囁いた。
「お前を喜ばせるため。お前との子を作るためだからな」
「ひ…氷雨さん…」
単刀直入にそう言われると顔が熱くなるのを隠せない朧は、首筋に這う唇の感触にわななきながらたくましい胸を押した。
「駄目、誰が見てるか…」
「人払いはしてある。誰が見てたっていいだろ、俺たち夫婦だし。それとも見られたり声を聞かれたりする方が燃え上がる性質なのか?」
「も、やだ馬鹿…」
ゆっくり押し倒されると、盃を脇に避けた氷雨は一度月夜を見上げて、そして目を潤ませている朧を見下ろしてふっと笑った。
「鬼頭の直系は月が出てる時に産まれるんだったな。月が関係する名を考えないと」
「氷雨さんが考えてくれますか?」
「いや、一緒に考えよう。男でも女でも使える名がいいな」
月に見守られて――氷雨の真っ青でいて優しい眼差しに見守られて、その腕に抱かれる。
全てを備えた男の子を産むことこそが、女としての至上の幸せ。
全てを委ねて、その目と同じ色の髪に指を潜らせて唇を重ねた。
最初から実るはずがない恋をして独り善がりに苦しんだ年月は長かったが、恋が実らなかったから積極性を失ったわけではない。
しかも同種族ではない特異な恋は氷雨をさらに積極的にさせていた。
幾多の障害も、これまた然り。
「朔兄様いつまで居てくれるんでしょう?いっそこの際新婚旅行の間ずっと…」
「ずっと?冗談だろ?」
朔を百鬼夜行に送り出した後、縁側で朧と月夜を眺めていた氷雨は、朧のとんでも発言に白い歯を見せてはにかんだ。
それだけで朧はぽうっとなったが、気を引き締めて人用の酒を少し飲むと、なるべく氷雨と目を合わさないように月夜を見上げながら少し早口に理由を述べた。
「だって氷雨さんは朔兄様が心配でしょ?朔兄様も氷雨さんが居ないと落ち着かないみたいだし、だから私…」
「第一ここに来たのは新婚旅行だし、主さまのことは心配だけど俺の目的は…」
朧が目を合わさないようにしていることを察していた氷雨は、腰を強く抱いて引き寄せると、耳元でこそりと囁いた。
「お前を喜ばせるため。お前との子を作るためだからな」
「ひ…氷雨さん…」
単刀直入にそう言われると顔が熱くなるのを隠せない朧は、首筋に這う唇の感触にわななきながらたくましい胸を押した。
「駄目、誰が見てるか…」
「人払いはしてある。誰が見てたっていいだろ、俺たち夫婦だし。それとも見られたり声を聞かれたりする方が燃え上がる性質なのか?」
「も、やだ馬鹿…」
ゆっくり押し倒されると、盃を脇に避けた氷雨は一度月夜を見上げて、そして目を潤ませている朧を見下ろしてふっと笑った。
「鬼頭の直系は月が出てる時に産まれるんだったな。月が関係する名を考えないと」
「氷雨さんが考えてくれますか?」
「いや、一緒に考えよう。男でも女でも使える名がいいな」
月に見守られて――氷雨の真っ青でいて優しい眼差しに見守られて、その腕に抱かれる。
全てを備えた男の子を産むことこそが、女としての至上の幸せ。
全てを委ねて、その目と同じ色の髪に指を潜らせて唇を重ねた。