氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
氷雨の肌の色は見たこともないような白で、本来ならひ弱な印象がある色であるものの――なめらかな稜線でいて触れるとごつごつしていて、指でなぞる度にその男らしさに吐息をつかずにはいられない。

しかも生来の甲斐甲斐しさがさらに発揮されて、身体から熱が冷める前に丁寧に浴衣を着せてくれる氷雨の唇をじっと見ていた。


「氷雨さんは昔からこうなの?」


「昔からって何が?ほらじっとしてろって」


「こんな風に他の女にもお世話を…」


「いやいやいや、ないない。余韻に浸りたいんだから喧嘩吹っ掛けてくんのやめてくれよな」


しっかり羽織まで着せられて膝に乗せられると、時々童扱いをされている気がする朧は、自然に頭を撫でてくる氷雨のその腕を取った。


「氷雨さん。私を童扱いしてませんか?」


「へ?いや、してな…」


「嘘。小さかった頃みたいに頭を撫でたり浴衣を着せてくれたり…もう私、小さくないんですから」


ぷうっと頬を膨らました朧を驚きを持ってまじまじ見た氷雨は、確かにそういえば昔からの癖で頭を撫でたりしているなと思い返すと、膨らんだ頬を長い指で突いて破裂させた。


「仕方ねえじゃん、癖だもん。大体俺がお前の襁褓を替えたり勉学を教えたり鍛えたり、なんでもしてきたんだぞ。今更やめろって言われても…」


「む、襁褓なんて言わないで下さいっ!小さかったから仕方ないじゃないですか!」


「だーかーらー、俺も仕方ないって言ってんの。なあ、これ埒が明かねえよな?それよか身体冷やすなよ」


首筋に張り付いた髪を払ってくれた氷雨に口で勝てないのは分かっている。

身体を預けてため息をつくと、氷雨は笑って朧の耳たぶにちゅっと口付けをした。


「お前には振り回されてばっかだけど、一番愛してることは信じてくれ。でないとこんな熱は感じられない」


「…はい…」


熱を感じることができることこそが、言葉よりなによりの真実。

この熱を感じることができなくなった時は――心が離れた証拠。


「私ずっと、氷雨さんを愛しています」


「ん、俺も」


それでも言葉で確かめ合いたい。

いつでも、どんな時でも。
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