氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧にはまだ知らないことが沢山ある。

家業について――何故百鬼夜行が行われているのか、父や母に訊いても口を濁すことが多く、また他の兄や姉たちが連絡を取り合っていることは知っていたが、朔の耳に届くことなく処理されている案件があることを知って驚いていた。


「それは知らなかった。お前知ってたか?」


「あー、俺は知ってた。だけど如月たちがよかれと思って主さまに言ってなかったんだし俺が口出しすることもないかなって」


氷雨と同様に如月の部屋で大量の文を見つけてやんわり問い詰めた結果白状した如月は、朔の前で縮こまって正座していた。

朧は女中の杏から赤子を預かってあやしながら邪魔にならないよう部屋の隅に座っていたが、氷雨はいずれ如月がしている業務を引き継ぐことになる。

その時鬼頭の者である自分が何もできないのでは全くの役立たずだ。

今までは末娘だからとちやほや育てられてきたけれど、所帯を持った今そういうわけにはいかない。


「あの、朔兄様」


「ん?なに?」


「私、能登へ来てみて知らないことが沢山あって…何も知らない自分が恥ずかしいです。私にも如月姉様たちがしてることをお手伝いしたいです」


氷雨、朔、如月が顔を見合わせた。

三人共に超がつく過保護なため、ここは粘る必要があると覚悟した朧は、それ以上言い募ることをせず頭を下げた。


「私も鬼頭家に生まれた娘です。朔兄様、どうか考えてもらえると嬉しいです」


「分かった。雪男を婿に迎えたからには朧が知らなきゃいけないことも沢山ある。皆で考えるから待ってて」


「はいっ」


うなだれていた如月の頭を撫でた朔は、弟や妹たちが健気にも陰で尽力してくれていることを痛感して感謝すると共に、精進しなければと気を引き締めた。


「さてと、せっかく能登に来たんだから少し出かけてくる」


「待て待て!俺も行くからひとりで出歩くな!」


超過保護が超過保護を引き留めて、過保護に徹した。

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