秀才男子は恋が苦手。
…あの時。
俺は嬉しかった。
一瞬でも、もしかしたら衛藤も俺のことを好きなのかもって思ったとき。すげー嬉しかった。
俺の部屋の、ローテーブル。いつか衛藤とした会話を思い出す。
“…あのなぁ衛藤。問題の解きっ放しはやめろ。ちゃんと答え合わせもしろよ”
“ご、ごめん。だってなんか、自分で解いたら満足しちゃって…”
“あのな。自分の答えが合ってると思い込むのはやめろ。ちゃんと答えを見て、確かめろ”
…当たり前のことだ。当たり前に、俺は出来ているつもりでいたけど。
衛藤の気持ちをちゃんと確認したことなんて、俺はあったのか。
自分で勝手に思い込んで、衛藤の気持ちを決めつけてたんじゃないのか。
「…不正解なら、それはそれで構わない」
どこかで怖かった。千葉に言われて、図星で頭にきて帰れなんて言った。
相手に迷惑だとか色んな理由をつけて、傷つくのが怖くて逃げ回ってた。
だけど…
不正解な問題をそのまま放置していても、正解にはならない。
時計を見ると、午後10時半をさしていた。
今ならまだ、衛藤は―――
俺はコートを引っ掴むと、部屋を飛び出した。