秀才男子は恋が苦手。
水曜日は塾が休みだ。
というわけで俺は、学校帰りに本屋に寄ることにした。
漫画や文庫本のコーナーを通り過ぎ、一番奥にある学習コーナーへと真っ直ぐ向かう。
目当ては高校数学の参考書だ。
できるだけレベルの優しいものを探していると
「…筒井くん?」
すぐ近くで俺を呼ぶ声がした。
振り向くと、そこに立っていたのはスポーツバッグを斜めがけした伊東敦。
「わーっ!偶然!さすが筒井くん!本屋いそうだもんね〜!」
そして、そんな意味の分からない感想を言いながら俺の両手を勝手に握り、ブンブン振り回す。
今気づいたが、この鬱陶しいところ、千葉に似ている。
「…そっちは本屋にいなさそうだが、参考書でも?」
両手を無理やり引き剥がし嫌味っぽくそう言ってやると、「まぁね〜」とヘラッと笑った。
「そろそろ本格的に受験勉強始めようと思ってさー!」
そろそろ本格的に、って…
遅い、遅すぎる。
普通は最低でも3年の春から始めておくべきだろう。
冷めた目で伊東を見る俺には気付かず、伊東が「筒井くんは?」と呑気な声で聞いてきた。