秀才男子は恋が苦手。
「あっ!つつるんこっちー!」
9時にカフェに着くと、既に衛藤の姿があった。
いつもとは違う、レジに近いテーブル席に座っている。どうやら、いつもの窓際奥の席には大学生の集団らしい先客がいるようだった。
「おう、悪い。待った?」
衛藤の正面に腰を下ろしながら聞くと、にっこり笑って首を振る衛藤。
「んーん!全然!こないだつつるんに教わった数学の続きやってた!」
「…ほう」
衛藤は数学が苦手だ。
自分でもそれを自覚しているようで、重点的に取り組んではいるのだがなかなか伸びずにいる。
「…衛藤」
「ん?」
俺はカバンから、今日購入したばかりの数学の参考書を取り出した。
「これやる」
「えっ…うそ!?いいの!?」
さっそくペラペラめくり始める衛藤。
「すっごい分かりやすそうだけど…基礎編??」
僅かに曇った衛藤の顔。
衛藤は時間がないことを考えすぎて、少しでも難しい問題を解けるようになろうと今必死になっている。
でもそれじゃダメだ。
「衛藤。衛藤の数学がいまひとつ伸びないのは、やはり基礎が固まってないからだ」
「え…でも、基本問題ばっかりやってたら時間が」
「別に超難関私大を目指しているわけじゃないだろう。とにかく基礎が出来ていないことには話にならない。基礎を完璧にして、解ける問題を確実に解く力をつける。
それが今一番、衛藤のやるべきことだ」