秀才男子は恋が苦手。
言っておくが俺は、わからない問題をそのままにしておいたことはない。分かるようになるまで問題を読み込み、参考書を読み込み、解説を読み込み、確実に分かるようになるまで反復問題をこなし、自分のものにしてきた。
だがしかし、この“問題”には当然参考書も解説もないわけで。
―――出題者本人に聞くしか、ない。
「…あの、さ。衛藤」
「んー?」
カフェからの帰り道。衛藤を家まで送る途中。今俺が持つ全勇気をかき集めた俺。
数学の参考書に視線を落としたまま、衛藤が生返事をする。
「あの…聞きたいことが、あ、あるんだが…」
「あっねぇつつるん、ここってさ、何でX=-1って仮定してるの?」
「え?あ、あぁそこは…」
衛藤の持つ参考書を俺も覗き込もうとしたとき、後ろから角を曲がった自転車が勢いよく走ってくるのが見えた。
「危ないっ!」
咄嗟に衛藤の肩を抱き寄せる。
自転車は衛藤のすぐ後ろを物凄いスピードで走り去っていった。くそ、何なんだアレ…。
「おい大丈夫か、えと…」
「うん、ありがとつつる…」
バチ、と至近距離で視線と視線がぶつかった。