秀才男子は恋が苦手。
「速水〜。お前もうちょっと頑張れ。山下〜、お前は…」
3時間目、数学。
今日はつい昨日行われたばかりの小テストの返却から授業が始まった。
「うわっ。何お前、満点!?」
ガヤガヤしている雰囲気に紛れ、俺の席までやって来た千葉がゲゲッと眉をひそめる。
「くそ、今回自信あったのにまた負けた!一回くらい勝ちてーのに!卒業までには絶対勝ってやるからな!?」
「あっそ」
「おまっ、リアクション薄!」
「衛藤〜」
キィィ、と地団駄を踏んでいる千葉の向こうで、数学担当の担任が衛藤を呼ぶ。
衛藤が立ち上がり、小テストを受け取った瞬間、その頰がゆるりと緩んだ。
…嬉しそう。
「衛藤、よく頑張ったな!すげーぞお前!あんなに数学苦手だったのにどうした」
「ありがとうございます!」
担任の言葉にニコニコしている衛藤。
“うん、正解。よくできたな”
“やったー!ありがと!!”
…つい昨日までは、すぐ近くにあった光景なのに。もう二度と、俺にはあんな笑顔、向けられない気がする。