秀才男子は恋が苦手。
「ほら、ここよく読んでみ?異なる3つの実数解を持つって書いてあるだろ?だからこの時のグラフはー…」
昼休み。
衛藤の前席に後ろ向きに座り、数学を教えている三神。
そんな三神の話を、頷きながら真剣に聞いている衛藤。
つい最近まで、三神のそこは、俺の位置だった。なのに…
「何よアレ」
いつからいたのか。俺の前の席に座った千葉が、怪訝そうな顔をしていた。
「何で三神が亜衣ちゃんに勉強を?」
「…今日担任が頼んでた、三神に。衛藤に数学教えてやれって」
「うっそ、マジかよ~。いいの?」
「は?」
「だから、筒井はいいの?」
いいのって。
別に衛藤が誰に勉強を教えてもらおうが、俺にどうこう言う資格は全くないわけで。
「…別に、関係ないし」
「関係ない、ねぇ」
ふーん、と俺の机に頬杖をついた千葉が、意味ありげに俺を横目で見た。
「…何だよ」
「別にぃ」
その時だった。
真剣な表情で教科書を読み込む衛藤の頬に三神が、触れた。
「!?」
「消しカスついてる」
取れた、なんて飄々という三神に、驚いているのか固まっている衛藤。
…無意識に。足が動いた。
「…で、どこまで説明したっけ?そうだ、これで極大値と極小値が分かったじゃん?で、次は、えーと…」
「解の公式を使うんだよ」
衛藤の机の前に立った俺に、ガバッと衛藤が勢いよく顔を上げた。