秀才男子は恋が苦手。



千葉はたまに、物凄く真剣な顔で、物凄く簡単そうに、どうしようもないことを言う。


「お前…何言ってるんだよ。
そんなの単なるワガママだろ…」


「恋愛なんてそもそもワガママなもんだろーが」



分かってねぇなぁ、と肩を竦める千葉はどうやら恋愛上級者のつもりらしい。



「お前はな、相手の気持ちばっか尊重してるようで実は何も分かってないだけだよ」


「…は?」


「いいか!好きならとことん、好きを捧げろ!相手の気持ち考えんのはその後だ!分かったな!」



そして千葉は「あ~…なんか良いこと言っちまったわ…俺」と自分に酔いながら、俺を置いてどこかに歩き去っていった。



…何だよアイツ。意味が分からない。



“好き”を捧げろ…?

自分の気持ち相手に押し付けたって、相手に…衛藤に迷惑なだけだろうが。



“相手の気持ちばっか尊重してるようで実は何も分かってないだけだよ”

分かってない…俺が?




俺は



“今まで…ごめんね”



あの時、泣きそうに笑っていた衛藤の表情の意味だけは、ずっと分からない。


何であんなに辛そうに笑うのか。



俺の知らないところで、衛藤が何かを考えて、動いているのだけは分かる。俺は置いてけぼりだ。


衛藤の気持ちなんて、全然分からない。



「はぁ…」


ため息が漏れた。

こうしている今も、三神と衛藤は二人で一つの教科書を覗き込んでんのかな。


というか。



“私、三神くんに勉強教えてもらいたい!”



言われた直後は、その言葉が衝撃すぎてそこまで考えつかなかったけど。


もしかして衛藤の“気になってる人”って、三神なのか…!?




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