秀才男子は恋が苦手。
「お前…見過ぎ」
昼休み。気づいたら、読書をしている俺を、千葉が呆れたように見下ろしていた。
「…何が」
そんなことを言いつつ、さっきから自分の読んでいるページが全く進んでいなかったことに気付く。
「だーかーら、三神と亜衣ちゃん見過ぎ」
「…別にそんなことはない」
はぁぁ、と千葉の深いため息が落ちてきた。
「知らなかったよ。お前がまさか、恋愛に関してはそこまで不器用だったとはな」
あの、何でもできる秀才くんがな~、と独り言ちの千葉は、心なしか楽しそうだ。
三神と衛藤は今日も一緒に勉強していた。
三神の飄々とした説明を、真剣に、時にはメモを取りつつ聞いている衛藤。
あの真剣な瞳は、ついこないだまで、俺に向けられていたものだったのに――って、俺はまた懲りずにそんなことを。
目を逸らしてもなお残る二人の残像を振り払うように、俺はページを捲る。
もう、考えない。考えたって仕方のないことだ。
「あ?」
不意に千葉が素っ頓狂な声を出した。人がせっかく集中しだしたというのにやめて欲しい。
「おい筒井、見ろよあれ」
しかも無視しているというのにわざわざ俺の肩を持って揺らしてくる。
「何―――」
千葉の手を振り払おうと顔を上げた俺の目に飛び込んできた光景。
三神が、至近距離で衛藤の前髪をいじっていた。
「何これ?寝癖?」
衛藤は真っ赤になりつつも、それを避けることなく受け入れている。
「う…今日寝坊しちゃって…時間なかったから」
「ふ。変な寝癖。なんか、子供向けのアホキャラとかにいそーだな」
「なっ…アホキャラって!」