秀才男子は恋が苦手。
「…ちょっ…つつるん…つつるんってば!!痛いよ!!」
衛藤の声でハッと我に返った。振り向くと、衛藤が困惑に満ちた表情で俺を見ている。
「…わ、悪い」
慌てて衛藤の手首を離した。
気付いたら教室からは遠く離れた、別館との渡り廊下まで来ていた。
すっかり寒くなったこの季節に、人気はない。
「………」
「………」
何とも言えない気まずい空気が俺たちを包む。
ていうか。
“俺のだよ”
…先程の自分の言動が不意に思い起こされて、死にたくなった。
俺のだよ、って、誰だよ俺。誰目線なんだよ、俺。
俺は衛藤の保護者でも彼氏でも何でもないし、そもそも衛藤はモノじゃないし。
きっと衛藤は怒っているはずだ。
好きな男の前であんなことされたら、あらぬ誤解を生む。
「…つつる「ごめん衛藤」
口を開いた衛藤を慌てて遮った。怖かった。衛藤から罵倒されるのが。
「突然あんなことしてごめん。三神には誤解、といておくから」
「……え?」
衛藤が眉をひそめた。
「誤解…?」
「本当、ごめん」
頭を下げる。
衛藤の手が、ギュッと拳を作ったのが見えた。
まさか…殴られるのか。
それほどのことをしたんだ、仕方がないと覚悟をしたその時、
「…なんで謝るの」
衛藤の声があまりに悲しそうで、思わず顔をあげた。