秀才男子は恋が苦手。
「へ〜ぇ、良い家住んでんなぁ!」
放課後。俺の家にやって来た千葉が、二階に続く階段をのぼりながらそんな感想を述べる。
「つか、家の人は?」
「父親はアメリカに長期出張中。母親は今日は夜勤だから帰ってこない」
「お母さん看護師だっけ?」
「そう」
「ふ〜ん。で、お前の部屋は?」
「一番奥の、ここ…」
ドアノブに手をかけて、はたと気付く。…そうだアレ、隠さなければ。
「ちょっとここで待ってろ」
「え〜何でだよ」
「いいから。絶対開けるなよ?」
そう怪訝そうな顔の千葉に念押しをして、素早く部屋の中に入った。
“平常心”
“早まるな 落ち着いてまず 深呼吸”
いつか壁に貼ったその紙を剥がして、机の中にしまう。
…これでよし、と。
「入っていいぞ」
ドアを開けると、千葉が待ってましたとばかりに部屋に入って、キョロキョロ辺りを見渡した。
「なんだよエロ本でも隠したのか〜?」
「持ってるわけないだろ、そんなもの」
「お前…それはそれで問題だよ」
ドカッと勝手に床に腰をおろした千葉が、おもむろに立ったままの俺を見上げた。