秀才男子は恋が苦手。
「で、お願いというのはだね」
「どうせ勉強教えて欲しいとか言うんだろ?」
「よく分かったな!さっすが秀才☆」
バチッとウインクをかましてくる千葉の正面に腰をおろした。
「それくらい分かるよ。つーか一生のお願いって…お前、それ俺に使うの何回目だよ」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃん?」
調子良くそんなことを言いながら、物理の参考書を広げる千葉。
「筒井もどうせ暇だろ~?亜衣ちゃんの専属先生役も引退したわけだしさ!」
「…暇なわけあるか。俺も一応受験生なんだけど」
「まぁまぁ、今度筒井の好きな駅前の店のラーメン、おごってやるから!」
「それお前が好きなやつだろ」
俺は深いため息をついて、渋々千葉が開いた物理の参考書をのぞきこんだ。
「―――で、この式を解けば。答え出るだろ?」
「お~っ、ほんとだ!やっぱ筒井すげーな!」
何やら感動している千葉が、カリカリとノートに答えを書き込んでいく。
“ほんとだ!やっぱりすごいね、つつるん!”
「……い、筒井?」
「……え」
やばい、トリップしてた。
は、と顔をあげると、じっと俺を見ていた千葉がやれやれと大仰に首を振ってみせた。
「お前、まーた亜衣ちゃんのこと考えてたろ」
「…そんなことは」
ある。物凄く、ある。
今だって、千葉の声が衛藤の声に重なって聞こえて。
…ほんと重症だな、俺。