私だけの場所。
そして次の日の、体育館。
私は千夏に連れられライブに参加している。
体育館には様々なジャンルの楽器が置かれ、中央にはマイクが置かれている。参加者が言った楽器を生徒会の人達が前に出してくれて、演奏する。みたいな仕組みだ。
「なんか、みんなハードル高そうよ?」
なんて、順番に並び今行われているライブをながめる。千夏は何故か自信満々で勝ちは見えてる!と笑っているのだが……私はそれどころじゃない。
小さい頃にピアノを習ってたからと言って……何年もの間ピアノすら触ってないのだ。正直指が動くかなんて分かったもんじゃない。
「大丈夫!いざとなったら歌えばいい!」
「ねぇ、最初から私ギターじゃダメ?」
「ダーメ!ピアノじゃないとダメ!!」
なんて、言い合ってるうちに順番がきて、ステージに立つ。結構な人がいる。こんなの、ピアノ発表会以来で……正直ガチガチ。でも、ピアノ椅子に座ればその緊張も驚くことに吹っ飛び……千夏を見れば頷くので軽く音を奏……曲を引く……
ピアノの音色と千夏の声が会場を虜にする……
切なく、淡い、恋のうた。
夢だったら良かった。でも、夢ならいつかは終わってしまう。終わらないで、消えないで。置いていかないで離れないで。
そんな切ない曲が体育館を包み込む。1曲終わるが時間はまだある。なら、この空気を入れ替えるように。
今度は雨の日に傘をさして散歩に行きたくなるような曲を半分。楽しい、嬉しい。そんな曲にテンションが上がるが……が、私はあることに気がついてしまった。
それに気づいて指が止まりそうになったが奏でる音を間違えただけで何とか持ちこたえた。私の音がズレたことに気づいた千夏がちらっとこちらを見るが私はそれどころじゃなく……間違わないように、必死に指を動かす。
そして、時間が来て……千夏がこっちに来るのを見ながらも、私は駆け出す。確かに、観客席の一番後ろのど真ん中。そこに……母はいた。いや、気のせいかもしれない。ふっと観客席を見た時、一瞬だったから見間違えかもしれない。そう思いながらも足を進める。
そして、母の姿があった場所にたどり着いたがそこに姿わなく、気のせいかと思おうとしたが……人混みの中で母の姿が見えて、そちらに走って追いかける。
こういう時、ドラマとかでよくある。刑事ドラマの刑事が犯人を追いかけ犯人が人込みに紛れる場面。や、離れ離れになった恋人がすれ違う場面。視聴者的にもどかしく思う場面だが、結局はお互いがお互い見失う。
いくら周りを探しても、見渡しても、母の姿はない。そして、立ち止まる。なぜ私はこんなに必死に母の後を追うのか……
あんな言葉を言って家を飛び出して数ヶ月も経つのに、今更会って何を話す?謝って、許してもらえなかったらどうする?
私の口から零れたのは、乾いた笑い声だった……