紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
家を出る前に、父と母に挨拶をしようと、二人の部屋を訪ねた。

「まあ、とても綺麗。」
部屋に入るなり、母の顔が笑顔になった。
父も珍しく頬が緩んでいるようだった。
私は、二人と向き合うように椅子に座った。

「父上、母上。今日まで、厳しくも優しく深い愛情を持って育てていただきありがとうございました。何事にも妥協をしない、父上の偉大な背中と、何事も包み込む、母上の大きな優しさは私の目標でありました。
16年間、沢山ご迷惑もおかけしたでしょう。お二人のおかげで、今日私はお二人の元を旅立つことが出来ます。本当にお世話になりました。」

最後の挨拶をすると、珍しく母だけでなく父も涙ぐんでいた。

やっぱり、私は愛されていたのだと改めて感じる瞬間だった。

「セン。あなたは親の贔屓目をなしに見ても、よくできた娘です。薬種と言う、知識の必要なお家にとついでもしっかりとやっていけると、思いますよ。あなたは、誰からも愛されるような人ですから、どんなところでもやっていけます。頑張るのよ。」
「母上。」

「お前のことは、正直茂晴よりも、厳しく育ててきた。それは、お前とは一緒にいられる時間が限られているからだ。その短い時間の中で、お前は求めた以上の物を私から吸収した。私からお前へ与えられる贈り物は、16年間のういでの経験と知識だ。これからは、それを野崎家でしっかりと培い、発揮しなさい。」

「はい、父上。」
二人の温かい言葉が胸にしみた。

大丈夫だ。なんせ私はこの二人に育てられた娘なのだから。

私達は、しばらくの間親子の時間を過ごした。
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