紡ぐ〜夫婦純愛物語〜

お昼前になり、私の準備も全て整いいよいよ、屋敷を出るときが近づいて来た。

私は、今までお世話になった使用人達に挨拶をしようと彼らに集まってもらった。
私は、玄関で見送りの位置に立っている彼らと向き合った。

「皆さん、私が生まれた日からずっと私は皆さんの愛を受けて今日まで歩いて参りました。そして、今日私はこの生まれ育った愛のあふれる家を後にします。沢山の助けを受けながら育った私は、これからの生活に一抹の不安を覚えるところではありますが、しっかりとした妻になれるよう頑張りたいと思います。本当に16年間お世話になりました。皆さんお体には気をつけてこれからも父上や母上、弟の茂晴を宜しく頼みます。」


そうして、彼らに笑顔で頭を下げた。

「お嬢様。向こうのお家で、しっかりと頑張ってください。でも、もし酷い仕打ちを受けたりしたら何時でも戻ってきてくださいね。私は何時でもお嬢様付きの女中ですから。」
藤枝が泣きながら言った。
　
藤枝とは、年が近い事もあり姉のように慕い特に仲が良かったので私も泣きそうになる。

藤枝に近づきそっと彼女の震える肩を抱きしめた。

「ありがとう、藤枝。けれど、私はたとえ酷い仕打ちを受けようとここへ帰ってくるつもりはないわ。野崎家の人間になるのですから、自分の力で何とかしてみせるわ。」

藤枝の体をそっとはなし、彼女の目を見つめた。
私は、大丈夫。そんな思いを込めて、ニッコリと笑ってみせた。

使用人達に挨拶を済ませて少しした頃に、野崎家から馬車で迎えが来た。　

私は、この馬車に乗り野崎家へ向かう。
家族は一緒だけど、使用人達とはここでお別れだ。

玄関を出る前に、もう一度彼らの方を向き礼をした。

彼らは、目に涙を浮かべながらも私の新たな旅立ちを笑って見送ってくれた。

幸せの溢れる家に生まれた事に、この上なく感謝の気持ちが込み上げてきたし、私もそんな家庭を作っていけたらと思わずにはいられなかった。