紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
馬車に乗り込み、ゆっくりと馬が走り出すと窓の外の景色は段々と見慣れた景色から、見知らぬ景色へと移り変わって行った。

そうして、馬車にゆられながら日が西に傾きかけたころには、野崎家へ到着した。

不安と、ほんの少しの新しい生活への期待とが、ごちゃまぜになった心で馬車を降りた。

初めて見る野崎家は、立派で大きな日本家屋のお家でうちと同じように店は大店に構えているらしい。

そして、その立派な日本家屋の玄関の前で、小柄な40代位の綺麗な女性と、その隣に正装をした50代前後のおっとりした顔の男性の姿があった。
「ようこそ、野崎家へ。家長の、野崎 弘幸です。遠いところをご苦労様でした。」

「はじめまして、藤田センさん。私は、優作の母 澄子です。どうぞよろしくね。」

どうやら、お義父様とお義母様のようだ。

「はじめまして、藤田 センと申します。本日は宜しくお願い、致します。」

私がお二人にお辞儀をすると、クスクスと笑い声が降ってきた。
見上げると、お義母様が手を口に当てて笑っていた。
「……?」
「あら、ごめんなさい。本当に噂通りの美しい娘さんなもんだから、優作がどんな反応をするか楽しみで。ふふっ」

笑った顔がとても可愛らしくて目を奪われていたけれど、お義母様的には私は嫁として良くなかったのだろうか、良かったのだろうか。

しばらくして、後を追って出てきた父と母も合流して一通りの、挨拶を終わらせた。

「ささ、どうぞお上がりください。センさん。優作は、祝言をあげる部屋で待っています。あいつも、緊張してますから、どうか楽にして下さいね。」

お義父様に、進められながら私は初めて野崎家の敷居を跨いだ。

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