紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
藤田屋の娘"セン"さんが嫁いでくるまでの、ひと月半。
私は努めていつも通りでいたのだが、野崎屋の奉公人として幼い頃から奉公に来ていて、友人でもある兼義“かねよし”には、「落ち着け」「そわそわするな、鬱陶しい」と、何度も注意をされた。

それでも、どこか落ち着けない私をみかねたのか「そんなに気になるなら見に行けばいいじゃないか。藤田屋のある、大店までは行こうと思えば行ける距離にあるんだし。」と、言われた。

「いや、いやいやいや。もし、そんな事をして万が一"セン"さんが、噂通りの美人だったら私は裸足で逃げ出しかねない。」
女々しいと、言うか男らしく無いというか、私はどうしても自分と言うものにそこまで、自信が持てないのだ。

「相変わらず腑抜けだねぇ。美人を貰って喜べない男なんてお前位だよ。だいたい、結婚したときに本当に美人だったらどうするんだよ。逃げるのか?」  

「いや………結婚してしまえば、諦めも付く気がする。」
そんな、私を見て兼義はため息をついた。
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