恋愛初心者です、お手柔らかに?
「あの、永山さん…」

電話の通話口を押さえながら、齋藤君が振り向いた。

「っん?ど、どうしたの?」

ぼーっと背中を見つめていた私は、きっと変な声を出していただろう。
その場を取り繕うように、返事を返した。

「すみません…、あの…」

言いにくそうにしている姿に、彼女からの電話か、と思った私はニコッと笑って言った。

「大丈夫よ。もう帰ろうと思ってたんだから、待ち合わせか何かでしょ?今からで間に合う?大丈夫?」

「え、あの…」

「いいから、早く。さ、出ましょ」

何か言いたげにしていたけれど、きっと彼女が会いたいたでも言ってきたんだろう。優先順位は彼女なんだから…

後ろ髪を引かれるように、店を出た齋藤君の後ろ姿を見ながら、私は駅に向かった。

「さて、和音でも行くかな…」

行きつけのBARにでも行こうと、私は歩き出した。


「和己さん、今日のオススメは何?」

「ん?今日はね…」

私は会社からの帰りに、よく行く和音(わおん)に来ていた。
店のオーナーである和己さんは、今勤めている会社の元先輩。
脱サラをして、このお店を開いた。

私が新入社員の時、指導員だった和己さんに、可愛がってもらっていた事もあり、私はお店がオープンした時からの常連だった。
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