君と僕のキセキ
輝きを失ったその石は、何の変哲もないただの石ころで、手触りからもその形からも、特別な何かを見出すことはできなかった。
でもたしかに、普通の石とは違うものを感じた。手のひらを通して、不思議な感覚を僕に伝えている。
上手く言葉にすることはできないのがもどかしい。いわゆる第六感というものだろうか。
とにかく、この石を手にした瞬間に、僕の中で物語は動き出したのだ。
僕がなかなか寝付けなかった理由が受験に対する不安というのは、もしかすると間違っていたかもしれない。
あの不思議な石と出会うために、僕はこの日、起きていなければならなかった。神様が、世界が、あるいは人智を超えた何かがそうさせたのだ。そんな気さえしていた。
深夜で、普段とは少し違った精神状態であるがゆえの、僕の勘違いかもしれない。なるべくそのことを考えないようにして、石をコートのポケットにしまった。
神社をあとにした僕は、家までの道のりを歩いた。足取りは軽い。寝付けなかったのが嘘のように、気分はさっぱりしていた。
その翌日は、いつもと同じ時間に起きた。枕元に置かれている不思議な石が、あの出来事が夢ではなかったことを証明していた。
四ヶ月後の春。僕は第一志望である、大和(やまと)学園大学の理工学部に合格した。
光を発し、空から落ちて来た不思議な石は、入学試験のときも鞄に忍ばせていた。
本当に、この石が願いを叶えてくれたのかもしれない。
大学生になってからも、巾着に入れてお守りにし、常に身に付けている。
そして、大学二年生の秋――。
僕は一人の少女と、とても不思議な出会いをすることになる。