君と僕のキセキ

〈キミはさ……〉

 伊澄が唐突に切り出す。

「うん」

〈もし、クラスでそれなりに仲が良い友達がいじめられてたらどうする?〉



 彼女は、どういう意図を持ってこの質問をしたのだろう。

 今まで生きてきた中で、幸運なことに、僕自身がいじめられるようなことも、友人がいじめに遭うようなこともなかった。だから上手く想像はできないけど、なんとなく自分がどうするかはわかる。



「そりゃどうにかしたいけど、見て見ぬフリしちゃうかな。自分が標的になるのが怖いし」

〈そうだよね。それが普通なんだよ〉



 伊澄はきっと、その友達のことを助けるのだろう。いや、間違いなくそうする。推測ではなく、確信だった。



「でも、絶対に後悔する。ものすごく自己嫌悪に陥ると思う。あのときもう少し勇気があればって。僕は、間違ったことが嫌いなくせに臆病で、そんな自分も嫌いで。だから、真っすぐに、自分の思った通りに行動できる人になりたいと思うし、そういう人をすごく尊敬する」



 僕がそう続けると、伊澄は〈キミらしいね〉と、少し嬉しそうな声で言った。

 彼女はきっと、その友達を助けて、代わりにいじめの標的になってしまったのだ。それは同時に、高校生が一人で昼休みを過ごしている理由でもあるのだろう。



 伊澄の真面目な性格は、僕としてはとても素敵なように思うが、同年代の女の子から見ればわずらわしいものなのかもしれない。



 父親の話のときもそうだったが、伊澄は隠し事が下手すぎる。

 正直であることは彼女の美点であり、同時に大きな欠点でもあった。真っすぐで誠実な人間には、この世界は生きづらいようにできている。
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