君と僕のキセキ
2.日常を変える歌
だらだらと続いた残暑が終わりを迎え、肌寒さを覚えるようになった初秋。
大和学園大学のとある教室で、僕は量子力学概論の授業を受けていた。
波動関数、シュレディンガー方程式、トンネル効果……。今までは言葉そのものについて、なんとなく聞いたことがある程度だった。授業では深く、理論的にそれらの現象を学ぶ。現象の本質まで理解できると、また違った世界が見えてくる。
そんな風にして、知識を増やし、世界を広げていくことが楽しかった。僕は紛れもなく理系の人間らしい。
教授がレポート課題の説明を終えたところで、ちょうど時間になった。
午前中の最後の授業が終了し、昼休みとなる。
ある者は友人と談笑しながら、ある者はスマホを操作しながら、ある者は一人で黙って教室から出ていく。その様子はまるで、排水溝に吸い込まれる水のようだ。
僕も教科書とレジュメをまとめてバッグにしまい、流れに加わる。
同じような教室がたくさん詰め込まれた建物を出ると、ある場所へと向かって歩き出した。
キャンパス内に点在するモミジは、紅く色づき始めている。
空は快晴で、眩しい陽射しが降り注いでいた。心地よい秋風が涼しい。こんな過ごしやすい日が一年中ずっと続けばいいのに。四季のもたらす色とりどりの美しい風景を度外視して、そう思ってしまうくらい爽やかな正午過ぎ。
多くの学生たちが食堂や学内の購買を目指して歩く中、僕は一人だけ流れに逆らって、人口密度の低い方へと進んでいた。