君と僕のキセキ
23.一途な気持ち
バイトが終わり、僕はバックヤードで温かい肉まんを食べていた。急な勤務を引き受けてくれたお礼ということで、店長におごってもらったものだ。
昼の伊澄との会話を思い返して、心が落ち着かない。モヤモヤのせいで、いくつか小さなミスをしてしまった。
肉まんを食べ終えて帰る支度をしていると、扉が開き、コートに身を包んだ少女が入って来る。
「あれ、どうしたの、文月さん。風邪はもう大丈夫なの?」
姿を現したのは文月さんだった。マスクを着けているせいで、吐息がかかった眼鏡の下の方が白く曇っている。
「はい。代わっていただいてありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまってすみません」
文月さんは深々と頭を下げる。
「いや、僕は大丈夫だけど。文月さんは、安静にしてた方がいいんじゃない?」
「家は近いので、用事を済ませたらすぐに帰って寝ます」
いつもより険しい表情を浮かべているのが、マスク越しでもわかった。声もどこか不自然に感じる。体調が悪いのに無理をしているのではないかと心配になる。
「用事って?」
「先輩に、大事な話があります」
彼女の顔が赤くなっている。外が寒かったからだろうか。いや、熱があるのかもしれない。
「大事な……話?」
なんだろう……。愚鈍すぎる僕は、この時点で彼女の心の内を察することができなかった。
一度深呼吸してから、彼女は切り出した。
「あの……もしよければ、クリスマスに、一緒に出かけてくれませんか?」
真っすぐに僕の目を見つめる文月さん。その声は不安そうに揺れていながら、力強い意思を感じさせた。