君と僕のキセキ
さて、ずっと黙っているのも褒められたものではないので、何か話題を出さなくては……。
「そういえば、朽名さん。さっき、学食で何か言おうとしてませんでしたか?」
僕たちがまだ学食にいたとき、男たちの会話が聞こえてきて、明李さんが何やら発見をしたという話が途中で終わってしまっていた。
「ああ、そうそう。時光くんが食べてるの見て思い出したんだけどね、カレーにアサリを入れると、すごく美味しいの。ネットでレシピを見たときは疑ったけど、やってみたら意外と――」
何だろう。この感覚は……。
同じようなことをどこかで聞いたような気がする。デジャブというやつだろうか。
おそらく、伊澄との会話の一部だ。
消えかけていた記憶の一端を掴んで手繰り寄せる。
思い出せ。無理やりにでも、これは思い出さなきゃダメだ。
何か、大切なことがわかりそうで……。
――うん。特にお母さんが作るのが美味しいの。
――全然隠れてないんだけど、アサリを入れてるのよ。
必死で引っ張り出した記憶は、衝撃の事実を物語っていた。
……そうか。そういうことだったのか!
全てが繋がった。
すると、あの伊澄の態度は……。
――その、明李さんって人のこと。もう諦めた方がいい。
そこまで思い詰めているなんて……。
「時光くん、大丈夫?」
明李さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。
行かないと!
「すみません。ちょっと行ってきます」
「え?」
呆気にとられる明李さんを背に、僕は走り出した。
二人が出会えた奇跡を嘘にしたくなくて。
二人の描いた軌跡を間違いにしたくなくて。
僕が伊澄と出会った本当の理由が、このときになってようやくわかったのだ。