君と僕のキセキ
「朽名さん……」
「時光くん、いきなり走って行っちゃうから何事かと思って」
「どうしてここが?」
「前に何回か、こっちの方向から出て来るところを見たことがあったから、なんとなく探してみた。出て来るとき、いつも嬉しそうな顔をしてたから何かあるのかなって思ってたけど、こんな秘密基地みたいなスペースがあったんだ」
明李さんが小屋の中に入ってきて、見回しながら言った。
嬉しそうな顔をしていたのはきっと、このスペースのせいではなく、僕が忘れてしまった誰かのおかげだと、直感的に思った。
「ごめんなさい。どうしても、しなくちゃいけなかったことがあって……」
心配をかけてしまったことを素直に謝罪する。しかし、その〝しなくちゃいけなかったこと〟が具体的に何なのか、自分でもわからない。
「へぇ、何してたの?」
勝手にいなくなった僕を非難するような響きはない。ただ純粋に疑問に思っているようだった。
「実は、大切な人にどうしても伝えなきゃいけないことがあって、でもその人がどんな人かはわからなくて、たぶんさっきまでは覚えてたんですけど……。あ、何言ってるか意味わかりませんよね。忘れてもらって大丈夫です。すみません」
「いや、そんなことないよ」嘘としか思えないような僕の発言にも、明李さんはちゃんと耳を傾けてくれた。「時光くんが言うなら、きっとそうなんだね」
「信じてくれるんですか?」
ついそんなことを聞いてしまう。
「時光くんは、嘘つけない人だもん」
思い出せないその誰かのことを僕は、嘘がつけないと評したことを思い出す。けれど、それ以上は何もわからない。