君と僕のキセキ
31.奇跡は巡る
宗平と最後の会話をしたその日の夜。
「お母さん」
晩御飯を食べ終えたタイミングで、私は母に話しかけた。
「どうしたの、伊澄」
「昨日のことなんだけどさ、何かあったの?」
「え?」
「なんか、悲しそうだったから」
私が宗平に酷いことを言ってしまうきっかけにもなった、母の悲しい表情を思い返す。
しかし母は、
「昨日の……いつ頃?」
よくわからない、といったような顔。とぼけているわけではなさそうだ。
「夜、私がバイトから帰ってきたとき」
「あ、あれかも。全然たいしたことじゃないの。ちょっと前から狙ってた服があったんだけどね、昨日行ったら誰かに買われちゃってたのよ。すごく可愛かったのに。そんなに悲しそうに見えた?」
「何それ?」
私は笑った。母もそんな私を見て笑う。
家族のことなのに、全然わかっていなかった。勝手に勘違いして、バカみたいだ。
「お父さん、遅いね」
そう言った母の顔からは、悲哀の色など一ミリも感じられない。
「うん」
私の心を読み取ったかのような、突然の話題の転換。娘の考えていることなど全部お見通しなのだろう。
「でも、そのうち帰って来るはずだから、気長に待ってましょう」
私の頭に置かれた母の手は、優しくて暖かい。思わず目を細める。
母はずっと、彼のことを信じていたのだ。そして、今も変わらず信じ続けている。本当に、敵わない。