君と僕のキセキ
〈キャンパス……ということは、大学ですか?〉
僕は、隣に置かれているバッグに手をかけた。バッグの近くで声がしたように思えたのだ。いったん持ち上げて、床や壁を念入りにチェックする。だが、何も仕掛けはなさそうだ。
「はい。そうですけど……。あれ?」
バッグの中も確認し、おかしなことに気付く。
僕は、約二年前に拾った石を小さな巾着に入れ〝お守り〟として、常に持ち歩いているのだが、そのお守りが淡い光を放っているのだ。
そして、僕が巾着から石を取り出した瞬間だった。
〈どうかしました?〉
思わず、身体をのけ反らせた。相手の声が、その石から聞こえたような気がしたのだ。
「お守りが、光ってるんです?」
〈お守り?〉
今度ははっきりと、石から音が聞こえた。その声からは、先ほどのこもった感じは消えていて、僕の耳にはっきりと届いた。
「あ、ええと……昔、拾った石のことです。それをお守りにして持っているんですけど、今、淡く光っていて……」
僕は簡単に説明した。
〈石? ……あっ!〉
声の主は何かに気付いたようで、ガサガサとどこかを漁るような音がした。
〈私のも、光ってます〉
「〝私の〟ってことは……あなたも石を?」
〈はい。父から譲り受けたものなのですが……。その石からあなたの声が聞こえます〉
「白くて、五センチくらいの石ですか?」
〈そうです。キーホルダーに加工されていて、いつもバッグにつけているものです〉
どうやら、こちらと全く状況が同じらしい。
「なるほど。僕たちはこの石を通して、離れた場所にいながら音声のやり取りをしている、ということですかね」
自分で言ってバカらしくなる。だが、大学の敷地内にいる自分と、公園にいるという彼女が話している状況は、正当な理論できちんと説明できる気がしなかった。
〈そうみたいですね。信じられませんが……〉
信じられないのは僕だって一緒だ。
どこかにトリックがあると考えるのが普通だが、それにしては、彼女の声はあまりにも自然すぎるのだ。若干のノイズは混じっているものの、石から発されていることは間違いない。