君と僕のキセキ
私を背負っている誰かは、私が眠りから覚めたことに気付いたようだ。
「あ、起きちゃった? ごめんね伊澄(いずみ)。車の中で寝てていいから」
私を背負っていたのは母だったらしい。優しい声に安心して、再び瞼が落ちる。
そういえば、明日は早く家を出るというようなことを言っていた気がする。
ガチャ……と、ドアを開く音が聞こえた。家の外に出たようだ。どこに出かけるのだろう。母に尋ねようと思ったが、まだ小学一年生の私は、睡魔には抗えなかった。
背中に、ベッドよりも固い感触。車の後部座席に乗せられたらしい。不規則な震動に揺られながら、私は徐々に意識を手放していく。
車内では父と母が会話していたようだったが、何を話していたかはまったくわからない。
「伊澄、着いたよ。起きて」
母に体を揺さぶられて、私は目を覚ました。車は停まっていた。
「……ここ、どこ?」
目をこすりながら聞いた。
「空港。これ、着替えて」
母が私に服を手渡す。小学校に行くときに着ているような、普通の洋服だった。
パジャマから着替えているうちに、ボーっとしていた脳も動き始めた。
空港――ああ、そうか。父がまた、どこかへ行ってしまうのか。
着替え終わった私は車から降りた。すでに外は明るくなっていて、朝日に目が眩む。
「さ、行こっか」
母はそれだけ言うと、私の手を取って歩き出した。手を引かれるまま、私はついていく。その隣には父もいた。三人で並んで歩いている。玄関に飾られた私の絵を思い出した。