君と僕のキセキ
そんな彼女と会話をしながら、思ったことがある。
僕がこうして彼女と出会ったことには、何か理由があったのではないか、ということだ。
今までに経験したどの出会いよりも、この邂逅は特別だった。
運命とか巡り合わせとか、そんなものは何一つとして信じていない僕が、必然性を感じるほどに。
しかし、その根拠はどこにも見当たらない。なんとなく、としか言いようがないのだが、とにかく僕は、彼女ともっと話していたいと感じた。
僕たちの間には、沈黙が漂っていた。
こんなとき、何を話すのが正解なのだろうか。いや、石から声が聞こえるなどという、常識の範疇を超えた状況においては、正解も何もないのだろうが。
「ええと、せっかくですし、自己紹介でもしますか?」
僕は何を言っているのだろう。気味悪がられて、相手が二度とその場所に来なくなってしまうかもしれない。もしくは石を破壊してしまうということも考えられる。
しかし彼女は、僕の心配とは裏腹にこう答えた。
〈そうしましょう。ですが、お互いに初めて会話したわけですし、住んでいる場所や学校名を教えるのは抵抗があります。そんなわけで、個人を特定されない最低限の情報ということで、明かすのは下の名前だけにしておきませんか?〉
善良な一般人としては、知らない人と話すのは危ないからやめておけ、と注意すべきなのだが、その『知らない人』というのが今は僕自身であり、決して危険な人物でもないと自負しているため、口にはしない。そもそも、僕から言い出したことでもあるのだ。
結局、僕は「わかりました」と賛同の意を示した。
〈ありがとうございます。私はイズミといいます。伊豆の伊にさんずいに登るで、伊澄(いずみ)と読みます。高校生です〉
頭の中で、彼女の言った漢字を並べてみた。お世辞ではなく、いい名前だと思った。
「伊澄さん、ですね。僕はソウヘイです。宗教の宗に平たいらで宗平(そうへい)です。大学生です」
僕も同じように、名前と必要最低限の身分を告げる。