君と僕のキセキ
〈宗平……?〉
伊澄が、僕の名前を小さく呟いた。一瞬、呼ばれたのかと思ってドキリとする。
「どうかしましたか?」
〈いえ、知り合いに同じ名前の方がいまして……〉
僕が尋ねると、彼女はそう答える。
「まあ、そんなに珍しい名前ではないので」
僕の方は、知り合いに伊澄という名前の女性はいなかった。なので、伊澄の知っている宗平という人物は僕ではないはずだ。
〈そうですよね。たぶん別人だと思います〉
「あ、そうだ。さっき伊澄さんが歌っていた曲、僕も好きです」
ある音楽グループの有名な曲だった。僕もよく聞いている。
〈なっ……止めてください! 恥ずかしいです〉
初めて伊澄の声に、感情らしき感情が現れて、僕は少し嬉しくなった。
「ああ、すみません。でも、かなり昔の歌ですよね。高校生が知ってるなんて、驚きです」
〈小さい頃、よく聞かされていたんです。両親に。おかげで、いつの間にか私も歌えるようになっていました。逆に、最近はやっている曲なんかはほとんど知りません〉
「最近はあまり曲は出してないですからね」
〈あれ……。でも、そのグループってもう解散したんじゃ……〉
彼女は当惑の入り混じった声で言った。別のグループと間違えているのかもしれない。
「えっ? 解散はしてないはずですよ。ライブとかも結構やってるみたいですし」
〈そうなんですか。すみません〉
「いえ、謝ることは……」気まずい沈黙が流れたので、話題を変えてみる。「さっき、公園にいるって言ってましたよね。その……学校はお休みなんですか?」
少しためらいがちに聞く。普通だったら高校生も昼休みの時間だが……。